パンと発酵の話

「旅はまだ終わらない」で、重要なシーンの一つは天然酵母のパン屋。既存の量販店とは違い、酵母種作りから成型&焼と、手間暇掛けて成果物に至る過程の入り口である酵母の発酵に関する知識習得のため、発酵料理人〝宮崎麻子先生〟による講義を5月5日に聴講しました。

レジュメに沿って、〝菌〟~〝食べること〟までの講話。漠然としか理解していなかった天然酵母パンの発酵。その具体的内容に触れた時間は有意義で、全て興味深いものでした。その中で私が特筆すべきと思った箇所を、いくつか以下にピックアップします。

◼️酵母菌は、発酵の過程でアルコールと炭酸ガスを吐き出し、良い香りの元となるエステルを作り出す。

◼️パン生地は30℃で、酵母は20℃で活発に活動する。

◼️酵母の営みが最も活発になった瞬間、オーブンに入れて皆殺しにしてしまう。

◼️酵母が死滅しているのに、時の経過とともにパンの味が深みを増していく原因は不明。

◼️発酵料理人である私の舌で味わった鎌倉のパン屋〝パラダイスアレイ〟のパンは、全身に衝撃が走り感銘を受けた。

◼️天然酵母のパン屋では、菌に影響を与える石鹸や、歯みがき粉等の化学物質は一切使用しない。

◼️微生物は甘い物が好きで、レーズン酵母が使いやすく、葡萄そのものに酵母が付着している。

◼️新たな植物等で酵母種を醸成するチャレンジをした場合、満足出来る成果物は3割程度しかなく難しい。

◼️社会の発展に伴う環境の変化により、共生すべき菌も減少傾向にある。

◼️人はあまりにも加工品に慣れてしまい、我々は鈍感になり弱りつつある。

◼️私は発酵料理人として、菌たちと一緒に料理を作っている気持ちになる。

◼️【結び】
これから我々が出来ることは、よく吟味して良いものを選ぶことと、食にお金を掛けること。

今回の受講で、普段何気なく食すパンが、デリケートな菌を活かし、そして菌に助けられ、我が子のように大事に育てあげられることに触れて、パンに向ける思いも改まりました。

製パンをするパン屋メンバーは勿論のこと、それを味わう徹やミサに参集する人々、そしてフードバンクの職員としてパンを配布する三郎やボランティアのれいこ、それぞれがその製造過程に思いを致し、パンが繋ぐ絆を意識しながら、演技を組み立てることの重要性を再認識しました。

アベ

岐路で指針になる言葉

即興をベースにした稽古に臨み、みなさん試行錯誤の日々だと思います。私も、汗をかきかき〝相川三郎〟像を探っています。

人生に岐路はつきものですよね。今回の演目では、右に行こうか左にいこうかと生き方に悩んだり、信じる道を突き進んだりと、色々な人間模様が交錯しています。そして、昔の職場・友・家族・パン屋・医師・ホームレス…とフォーカスされる人物やシーンも様々。

先日、私自身の人生を改めて見つめなおす機会に繋がり、且つ医師役を演じられる方のみではなく、舞台に取り組む全員の役作りや生き方にも、大なり小なり参考になるであろうと思われる、琴線に触れる言葉に出会いました。

それは、ミャンマー等で、25年以上小児外科医として活躍中の吉岡秀人先生のドキュメンタリーのなかで、先生の口から発せられたものです。

「本当の失敗は行動しないこと。」

「医療は命を助けることだけではなく、治療の前後で患者の生活の質を向上させること。」

「完成されないことがエネルギーを生む。不完全さは人生においてはさざ波。それをエネルギーにして進め。」

「時間を何に変えるかによって人生の質が変わる。僕は僕のためにやる。自分のために時間を使う。あらゆる行動を自分のためにやっているから続けられる。」

「自分の人生を大切にし、自分の価値を自ら悟る。」

「最も人を幸せにした者が、最も幸せになれる。」

これらの言葉は、現役時代の生き方に疑問符を抱いていたであろう三郎が、新たな文化に出会い、生き生きとしたセカンドライフを送ることになって行く背中を押す気がします。加えて、舞台に限らず、私の実人生でこれから出会うであろう岐路と対峙した時にも活かしていきたいと思うほど、経験に裏打ちされた重みのある言葉だと心に刻みました。

アベ