
あれはいつのことだったろう?出前公演を控えたある日、エマさんが発した「演劇に触れる機会を持つ人は意外に少ない。かんじゅく座が初の観劇体験となった人に我々の舞台が響かなかった場合、大人でも子供でも、一生観劇をしなくなるかもしれないので、心して臨んでね!」の言葉が強く印象に残っているのです。かくゆう私も、入団していなければ、演劇への興味など湧かずに過ごす日々だったことでしょう。
劇場という非日常の空間に集うお客様は、出前公演でも劇場公演でも多士済々。
最初は、「学芸会の延長線程度だろう!」とたかをくくって足を運んでくれた数多くの友も、かんじゅく座の舞台がささやかにでも心に届き、以降毎年足を運んでくれているのは嬉しい限りです。
舞台で躍動する我々の頑張りに目を見張ったり、純粋に物語に入り込んだり、冷静な批評家目線だったり。そしてたまには、自身のシニアライフの〝歩み方探し〟の参考にと来場している方も…いずれにしても、追って寄せられる感想は、称賛であろうが厳しかろうが、どれもが次への糧になるのです。
舞台の上では、概ね視線は演者同士の対話に終始しています。しかし、時に身体を開いて客席に正対するとき、眩しいスポットライトの向こう側の客席は真っ暗闇。そんな見えない客席にあるあまたの瞳に〝思いよ届け!〟と、気持ちを乗せている自分がいます。
幕が降りれば、皆はまたそれぞれの日常への帰路につき、残る劇場は再び静寂に包まれることを考えると、この空間での一期一会の妙を感じ、舞台は生物であることを再認識。これは貴重な一瞬だ!と、毎回、大切に、大切に、の思いが、スポットライトを浴びているさなか、押し寄せてくるのです。
アベ