矛盾や狂気をはらむ〝戦争〟をテーマにした今年の出前公演は、以下の二作品。
①仮に敵国の兵士であっても、心通わせた友に引き金は引けない。しかし、戦地に赴けば無差別に人の命を奪ってしまう。そんな理性の矛盾を招く〝戦争〟という名の魔物の怖さと、儚い一期一会を描いているのであろう、小川未明作の童話「野ばら」。
②何十万人もの罪なき人々の日常を、一瞬にして奪う原爆の狂気と、からくも命を継いだ者の苦悩や、胸の奥底に秘めた悲しみが伝わる、佐和みずえ作の絵本「かずさんの手」。
座員各々があらためて戦争関連の資料に数多く触れた。加えて、折しもノーベル平和賞を受賞した、日本被団協の被爆体験者から直接体験談を伺い、重い歴史の実相に触れる機会にも恵まれた。
正直最初の本読みで、淡々としたこれらの作品が、果して観客に説得力を持つように仕上がるのだろうか?との思いを私は抱いていた。
しかし、どうだろう出来上がった舞台は。演者達の練度の高まりに加え、影絵・BGM・効果音・赤青黄色と明滅する照明・エピローグの言葉の掛け合い・歌「みらい」等によって、〝戦争〟から派生する、儚さ・痛み・悲しみ・恐怖、そして対極にある平和の大切さをしっかりと表現するに至り、涙する観客を目の当たりにした時、正に演出の妙だとつくづく感じた。
いずれも短編だが、稽古が進むにつれ、その奥深さに気付かされた。そして、心なしか今までの作品に比べ、稽古後の疲労感を強く覚えたのは、向き合った〝戦争〟というテーマの重さゆえか?
両作品が主題に据えるのは、「戦争!二度と繰り返してはいけない!」のメッセージ。私も〝戦争は未体験ながら、これは絶対に語り継がなくてはいけない〟との思いを強くした。それゆえ、ノーベル平和賞授賞式での被団協田中氏のスピーチにあった「人類が核兵器で自滅することのないように!」には、いたく共感した。
両チーム合わせて5回にわたる公演で、我々の思いが観客の琴線にささやかにでも届いたのではと信じたい…いずれも忘れ難い舞台であった。そんななか、特に印象的だったのは、〝10代~70代・10ヵ国の国籍〟という年齢・出自も多様性そのものの40名の生徒を前に演じた、夜間中学での公演。
日本語の理解がまだ不充分な生徒も多いはず。にも関わらず、時には頷きながら真剣に観劇する姿に、演劇は軽々と国境を越えられるのだなと実感した。いずれ受け取る、生徒達の感想文が、今から楽しみ。
スイカ・キンタローの全公演、間違いなく密度が濃かったぁ!
アベ