出前公演に向けて

私は、今年11月~12月に予定している出前公演に、初めて出演する。演目は、「海をこえて虫フレンズ」と「いのちをいただく」の2本立て。

「海をこえて虫フレンズ」では、私は小学校の教室に黒い蝶を飛ばす黒子の役。早速、竹ひごの先に大人の手のひら大の蝶を作ってみた。まずは我が家でシュミレーション。最初の試作品は、風に飛ばされてきた洗濯物の黒いパンツにしか見えなかった。改良を入れた2作品目は大き過ぎて、蝶と言うよりまるで盛りのついたコウモリだった。そしてついに完成したのが写真を切り抜いた本物のようなクロアゲハ蝶。こいつが舞台狭しと乱舞する姿を是非ご覧頂きたい。

「いのちをいただく」は、実際に牛を解く(殺す)仕事を、長年やって来た方の実話である。私は食肉センターで牛を解体する職員の役で、ストーリーの中では実際に牛を解くシーンもある。とはいっても私は実際どのようにして牛が解体されているのか全く知る由もなく当然不安でいっぱいだった。そして足を運んだのが、品川の東京都中央卸売市場食肉市場内にある「お肉の情報館」である。

初めは牛を殺すシーンなどは、映像で見ることはできないだろうと期待はしていなかった。ところが入り口を入ってすぐ目についたのが1台のノートパソコン。閲覧自由なのである。私はドキドキしながら解くシーンを探した。そしてついにその瞬間の映像を発見した。アップで映し出された映像には、耳にタグを付けられた牛が、鼻に通された縄を人に押さえられじっとしている。そこにスーと差し出された銃のようなものが眉間に当てられた瞬間、あっという間に牛はその場に崩れ落ちた。牛の急所である眉間に衝撃を与え、苦しまないように一瞬で気絶させるのである。

その後は分業による流れ作業で手際よく解体され、私たちの食卓に上がるまでが、分かり易くかつ生々しく動画に収められていた。私はパソコンを閉じると館内の展示物を見て回った。そこには私にとって衝撃的なものが展示されていた。最初に牛を気絶させるために現在使われている屠畜銃(ノッキングガン)の隣に置かれている大きなハンマーである。50センチ程の長い木製グリップの先には15センチを超える大きな鉄製の打撃部分が付いている。昔はこれを使って牛の眉間を打っていたのだ。現在のガンは性能が良く失敗は殆どないそうだが、このハンマーを使っていた頃は少しでも手元が狂えば急所をはずし牛が大暴れすることもあったという。ハンマーを握る部分の年季が入った黒ずんだ色がそれを物語っていた。

今回の芝居は、現代のノッキングガンを使う設定なので、私は正直言って救われた気持ちになった。しかしながら私の舞台での役は、お肉にする牛が、苦しまず自分でも気づかないうちに天国に行かせてあげることには変わりはない。改めてこのお芝居に半端な気持ちで臨んではいけないという、使命感が湧いてきた。

今まで当たり前のように食していたお肉に、こんなストーリーがあった事を今初めて知った。これから舞台本番までの間にどのように表現してゆくかがスタートした。このお芝居を観てくださる方々に、動物たちの命の尊さ、そして彼らへの感謝の気持ちを伝えられることができれば、こんなに嬉しいことはない。

たか

狂言に触れて

「命に関わる危険な暑さ!」と、連日声高に報道されている夏。その暑ささえ吹き飛ばす、「狂言」の基礎講座を、金太郎&スイカの両チームとも、今年も受講した。

主眼は勿論、発声方法の修得。マイクなどなかった将軍足利義満の時代に、天才、観阿弥・世阿弥父子により大成され、約700年の歴史を有する能楽の発声方法。昨夏も学んだ声を神の居る地に吐き、遠くへ届ける日本人特有の発声に、心新たに臨んだ。

講師は、去年もご指導を受けた能楽師狂言方大蔵流の川野誠一先生。稽古の導入部は今年もまず構えから。力まずに!との指導にも、体得するのに一苦労。膝から腰に掛けて〝く〟の字を描き、地に傾けた骨盤を力点に、喉を支点に、そして作用点としての発声。重心を移した足の指先には無意識に力がぁ! 加えて、口角を上げ笑顔で喉を開いて、下に向けて声を出す。相変わらずこれって結構大変…エッ!もしかして私だけ?

題材は「狂言『禰宜山伏』の禰宜の祝詞」。その内容は、仏(山伏)と神(禰宜)とのいさかいの風刺で、両者どちらが立派であるかを大黒様に説くやり取り。最終的には神(禰宜)が大黒様を振り向かせて勝利に至る口上である。

横隔膜呼吸法による臓器振動を実践しつつ、先生に続き全員の〝唱和〟から始まり、題材を細分化して順番に発声する〝調子渡し〟へと稽古は進む。〝調子渡し〟では、耳を澄ませ前者のトーンやリズムを引き継いで(場合によっては修正して元に戻したり。)、なめらかな流れが求められるが、音程やリズムやブレスに配慮する点は、歌唱と同じだと感じた。続けるうちに、段々と皆の声が地から這い上がるように連なっていると思えた時、〝なんちゃって幽玄の世界〟に少~し触れた気分になった。

私の普段の発声は、息を吐く時に腹筋を絞る。しかし、今回の指導は、〝発声時腹を膨らませる〟とのこと。この点に大きな差異を感じ質問。先生曰く、筋力で維持するのではなくて、きちんと構えが整えばそうなる。因みに、通常の演劇でも歌唱でも、発声法は同様とのこと。

伝統芸能に関する知識が浅い私は、ここぞとばかりに、先生と会話。結果、以下のような基本的な知識を拝聴。今後能楽を観劇する際、着眼して行きたい。

◼️能楽とは、常にセットで上演される能と狂言の総称である。

◼️能楽とは、陰と陽の世界である。

◼️狂言は①陽の芸で陰の息(物をさます息)②喜劇

◼️能は①陰の芸で陽の息(物を温める息)②悲劇

と、まぁ、構え・発声・唱和・調子渡し・耳学問と、心身共に豊かになった基礎講座。また来年もと…期待しつつ、企画立案のエマさんと、それに応えて下さった先生に感謝の夏ぅ~!

アベ