何でも変身そんな演劇の心を届けたい!

 燃えるような秋色の葉をすっかり落とし、玄関の正月飾りが出番を待っています。そんな師走、今年の後半から稽古に励んできた「花のき村と盗人たち」「タヌキの土居くん」の2本立て公演が、沢山の拍手の中で「みらい館」で幕を開けました。

 初めて経験する出前公演に心を浮き立たせ、無我夢中で台本の文字をなぞっては目を閉じ頭の奥に刻み込む。散歩の道すがら枯葉を踏む音を聞きながら「ありがとさんさんありがとさん」お経のように唱える。時には湯舟の湯気の中で。いつしか台本のセリフが自分の言葉になっていく小気味良さが嬉しくて風と空飛ぶ鳥にも話しかけ、道端のコスモスにはぐるっと回ってご挨拶、花たちの拍手を背に軽やかな足取りはもう夢の中、芝居の中のタヌキの土居くんです。

 仲間と紡ぐ芝居は楽しい。私は土居くん、狸の体型には自信がある。顔も丸顔、尻尾を付けて夜道を歩いたら演技はいらないと友人も納得の役を頂いた。衣装で悩んでいたらお友だちのアカネちゃんから提供された、腹太鼓の中身はこれまた年代物の銅製鍋。尻尾も耳も、みんな同じ団員仲間の温かい思いを背負って稽古は進んでいく。

 一番の難関はタヌキのメイクでした。試行錯誤を繰り返し初めての経験は身も心もタヌキに化ける、それは変身する楽しさを教えてくれました。アァ〜演劇は動物にでも花にも鳥にだってなれるんだ。それを観客に伝えたい!届けたい!

 そんな思いを乗せて、さぁ〜いよいよ出番です。タヌキが1匹舞台に吸い込まれて行きました。〝ありがとさんさんありがとさん、ありがとうならイモムシはたち〟皆さん最後までお読み頂き本当にありがとう!            秋生

ありがとさんさん子供達

 毎年恒例の出前公演が、12月16日に都内の児童館でスタート。今回の観客は16名の小学生。

 古稀が間近な私の記憶に、低学年で観劇した着ぐるみの劇団〝木馬座〟に、心が踊ったあの日が残る。それと同じく今日この時間が、心柔らかな子供達の未来まで、残れば良いなとの思いで舞台に立った。

 舞台は最上階の体育館。ガラス貼りの壁面越しに、初冬の優しい陽射し。あたかもオレンジ色のスポットライトのように我々を照らし、セットの木の葉も浮き上がらせて。

 開演すると、舞台に見入る子供達。〝土居くん〟のアクションに笑い、音楽の生演奏に拍手。そして、怖い〝かしら〟の動きには固唾を呑んで静まり返り…幼心の機微がストレートに舞台に届き、私達は嬉しさに包まれた。

 日暮れて終演。子供達と演者の「バイバイ」「有り難う」「楽しかった」の声と笑顔が飛び交って、体育館には温もりが満ち満ちた。

 〝正直であること〟〝見た目だけで人を判断しないこと〟〝仲良くすること〟の大切さを伝えたかった私達。子供達が何かを汲み取ってくれればとの思いもあるが…それよりなにより、「飛び出す絵本を見たように楽しかった!」と、思って貰えるだけで充分。素敵な時間を共有出来た、そんな一日。            アベ