エクササイズのその先に

 新年早々のシニア演劇ネットワークのメルマガで、エマさんの以下のコメント(抜粋)を目にしました。

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《コメント抜粋》

 今年は「みんなでつくる」舞台にしたいと思いました。演劇は相手あってのもの!相手役との交流なくして成立しないのだから!・・・というわけで、台本に目を落とさずに演じる即興で作っていくことに。でも即興の大前提は「集中」です。そこで!集中のための稽古から始めることにしました。演劇のワークショップでよくやる「エアキャッチボール」や「ミラー」で、相手の動きをしっかり観察してもらいます。

         《以上》

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 確かに、年明け以降再開した稽古では、その二つのエクササイズを行っています。

 正直、私は指示されるままに漠然とやっている感がありました。しかし、その効果や狙いの本質を知れば、更に真摯に向かい合えると思い、演劇に関する種々のエクササイズを調べてみたところ、次のような解説に出会いました。

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 【エアキャッチボール】

 必要なのは相手を想い想像する力。友達と共通のボールをイメージする必要があります。重さ、大きさ、弾力などある程度の条件を共有化します。また、相手のモーション(動き)を見て、ボールがどの方向に、どの速度で飛んでいるかをイメージします。うまくできるようになると、相手が投げたボールを目で追うようにしてキャッチしています。目の動きにも注目です。この動作は、脳機能を非常に刺激するものです。

 投げる(動)、受け取る(静)の切り替え。慣れるまでは約束として投げる→キャッチする→投げる順番で丁寧にいきましょう。丁寧な中にも転がす、上に投げる、強く投げるなど投げる状態を変えることで楽しむことができます。

 もしかしたら、気持ちの切り替えや話が聞きにくい要因として、この静(相手の話を聞く)と動(自分の想いを伝える)の切り替えができにくいのかもしれません。是非、エクササイズの中から刺激を受けてください。

    【ミラー】

 集中力をゲーム感覚の中で育成する最高の手法の一つである。二人で1チームを作る。向かい合って立つ。相手の全身が目線に入る距離をとる。一人が鏡の前に立つ人物であり、もう一人は鏡の中に映る前者の映像である。鏡の前の人物がなるべく簡単な動作、しぐさ、顔付きをする。もう一人はその動作、仕草、顔付きを時間差が生じないよう、かつ正確に真似る。

 このトレーニングは集中を高めるためのものであるから、次のような原則を守ることによって目的が達成できる。①話をしない。②鏡の前の人はゆっくりしたわかりやすい動作を行う。③鏡の前の人はリーダーでもあるから、相手が自分の動作をきちんとフォロー出来るかどうかを絶えず確認しながら新しい動作へと発展させなければならない。④真似する動作は出来る限り時間差がなく、まさに鏡の中の映像のごとく正確に表現されなければならない。⑤エクササイズの最高の秘訣は、相手の呼吸を観察し、呼吸を合わせ、呼吸がムーブメントのスタートや変化のサインであることを発見する。⑥また同じように目線が大切なサインであることも発見する。

 俳優修業で、「ミラー・エクササイズ」は、感性にとって最高の基礎トレーニングである。このエクササイズは集中力を高めるための科学的なアプローチである。

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 各エクササイズの真意を踏まえて、稽古に集中!集中!の意を新たにした次第です。

           アベ

初舞台

 初めまして。〝八木下先生〟と〝下男〟を演じた、通称〝しばさん(柴崎 孝)〟です。なんとか初舞台を乗り切ることができて、一安心しているところです。

 1年半前、パリテを観劇。
社会問題をテーマとする演劇。やってみたいと思いました。でも、せりふを覚える自信がありませんでした。結局、尻込み。半年前、「あの日のトンネル」を観劇。カーテンコールに大感激。大変失礼ながら。いい歳をしたおじさんおばさんがハイタッチをして、お互いのがんばりを称えあっているではありませんか。きっといろいろ大変なこともあったんだろうなと思いました。私もあんなおじさんになりたいと決意しました。

 そして初舞台。稽古の過程で、せりふの不安は払拭されました。しかし、本番でポッカリせりふが飛んでしまうこともあるのではという不安はつきまといました。カーテンコール。これでなんとか、かんじゅく座の一員としてやっていけると思いました。

 私は別人格に変身できる演劇が大好き。今後ともよろしくお願いします。
           しば

今年の名誉都民!

 スイカチームの皆様、「出前公演」千秋楽、お疲れ様でした。

 エマさんが今月、「くちづけ」の公演を案内している文中に「劇場は新宿ど真ん中のシアタートップス。」「演劇人には非常に人気のある劇場で、カリスマ支配人が蒸発したあとは不安定ではありましたが、下北沢の本多さんが支配人となり嬉しい復活を果たしました。」とありました。

 この本多さんとは、言わずと知れた本多グループ社長の本多一夫氏。この〝シアタートップス〟を加えて、現在所有する劇場は9つ。8つは 〝本多劇場〟を含めて、全て下北沢にあります。世界一の劇場主(こやぬし)だそうです。今回は、この本多さんについて記してみます。

 同氏は今年度の東京都名誉都民に選ばれました。顕彰事由は、「個人劇場を数多く運営し、演劇人の夢を支援し続けてきた。」「その活動は演劇界の発展のみならず、下北沢を演劇の街として活性化させることにつながっている。」とあります。

 さて、今年8月の某日。私は本多プロデュースの芝居「続・歌う!ペンション ビーチサイドやまびこ」の稽古場で、本多さんと一緒に立稽古をしていました。本多さんも出演者のお一人。そこにもたらされたビッグニュースが「名誉都民」内定の一報でした。

 この日、稽古が終わった後に、出演者全員がポケットマネーを出しあって、ささやかな花束を贈呈しました。祝賀会はコロナのために繰延になっています。

 同氏の自伝「演劇の街をつくった男」を読みますと、
「わたしは札幌の俳優養成機関に居た時代に~芝居をやりたいのに場所がない~という苦労を知っている。」「だからわたしは演劇が忘れられず、芝居をしたい人たちを応援したい。この思いから劇場経営にのりだした。」と記しています。たぶん、ご本人こそ演劇が忘れられず、芝居をしたい人たちを応援したい気持ちだけで、自分の生き方を変え、私財を投げ打ち、街を変え、日本の演劇が現在の形になる大きな役割を果たしたのです。

 さらに次のような記述もあります。「(新東宝のニューフェースとして俳優デビューしたが)残念ながら夢の途中で会社がダメになって、その後は飲み屋の親父になり、思いのほか儲かって、今はこうして劇場をつくって芝居の世界と関わっています。本当はもっと良い舞台役者になりたかった。」

 10月3日、名誉都民の顕彰式で本多一夫氏の紹介は、
嬉しいことに「劇場経営者」とあるだけでなく「俳優」の2文字が入っていました。
そしてスピーチでは、「今年88歳となりましたが90歳になるまで芝居は続けたい。」と語っています。

 来年80歳を迎える私にとって、なんとも心強い大先輩と芝居をご一緒できた夏でした。
           ヒコ